2015年10月6日火曜日

『雪華図説』の研究 03 模写図と顕微鏡写真と比較 (第6図から第9図)


『雪華図説』の研究 模写図と顕微鏡写真と比較 第六図
第六図
    第六図は実は模写図と写真との対照が全体として余り一致してゐないのであるが、中心から六出してゐる枝の形の一つの特徴を捕へてゐるといふ点を示す為に掲げたものである。同図(B)の写真で見られるやうに、此の大枝は、此の場合は内部に構造が見られず、且つ先へ行く程段々細くなるやうな形をしてゐる。(A)の模写図はその特徴をよく示してゐると思はれる。顕微鏡写真の方は、その外に小枝が沢山見られるといふ点が違つてゐるだけである。


『雪華図説』の研究 模写図と顕微鏡写真と比較 第七図
第七図
  第七図は模写図と顕微鏡写真とが極めて著しい類似を示してゐる例である。中央から六出してゐる枝の先端に近い所で、簡単な然し明瞭な小枝が出てゐる場合であつて、かういふ模範的な枝分れの例は、枝分れの現象の研究に大切な資料である。此の(B)図は、結晶が出来てから観測される迄大分時間が経つた為に、内部の構造即ち小凹凸が、昇華作用の為に可成り消えてゐるのであるが、他の例では、この枝分れの点で結晶の核(蕊)が見えることが多い。多分結晶生成の途中、結晶の他の核が枝の一部に付著すると、其処から枝分れが生ずるものと思はれる。此の場合と限らず、一般に結晶の落下速度から計算すると、之等の結晶は少くとも二三時間かかつて出来たと思はれ、特に比較的暖い地方では、観測する迄に可成り変形してゐることが多いのである。


『雪華図説』の研究 模写図と顕微鏡写真と比較 第八図
第八図
  第八図は広幅樹枝と称する型の一種で、樹枝状の枝の幅が可成り広い。水蒸気の供給多く、結晶が速く発達すると、枝は細くなる。此の種の広幅樹枝の結晶は、前述の扇型と後述の完全樹枝状との中間の状態で出来たものと思はれてゐる。同図(A)の枝の外形は、(B)の種類の結晶の特徴をよく見たものであると思はれる。


『雪華図説』の研究 模写図と顕微鏡写真と比較 第九図
第九図
  第九図は完全樹枝状の結晶の例であつて、此の種のものを羊歯状と呼ぶことが多い。中心から六出してゐる大枝から沢山の小枝が出てゐる。此の小枝は皆六十度の角度で出てゐるので、従つて各々の小枝は他の大枝と並行してゐる。欧州の昔の雪の記録でも、旧い頃例へばマグヌス(一五五〇年代)の頃はまだ此の小枝が六十度で分岐してゐることは知られなかつたが、フック(一六六五年)の時代になると、その点が明かにされてゐる。土井利位の観測は、それよりまだ百五十年以上も後のことであるから、当然のことではあらうが、(A)の模写図にはその点も明瞭に描いてあり、可成り立派な模写であることが分る。此の羊歯状結晶は、水蒸気の供給も一番多く、丁度角板とは反対の極端な場合に当る状態で出来たものである。此の種の結晶は生長も速く、従つて大形のものがよく見られる。普通直径三乃至四粍位あり、時には七八粍のものもある。それで肉眼でも可成りよくその構造が見られるものである。

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