2015年10月6日火曜日

『雪華図説』の研究 02 模写図と顕微鏡写真と比較 (第1図から第5図)

冬の華. 第3 『雪華図説』の研究
中谷宇吉郎 著:: 甲鳥書林: 昭和16(1941)

二 模写図と顕微鏡写真と比較


『雪華図説』の研究 模写図と顕微鏡写真と比較 第一図
第一図
  第一図は六角板の例であつて、此の種の雪は水蒸気が比較的少ない時に出来る。我国では後述の樹枝状の結晶に比し、観測回数が少く又大きさも小さいことが多い。(B)の写真は札幌で撮影したものであるが、十勝岳の三千五百尺位の高さの所では、此の十分の一くらゐの小さい角板が沢山観測される。その方は結晶生成初期の状態である。さういふ小さい角板から順次大きい角板に生長するので、内部に色々の模様が出来る。(A)の模写図にもそれが描いてある。


『雪華図説』の研究 模写図と顕微鏡写真と比較 第二図
第二図
  第二図は此の角板に微水滴が付著したものである。地表に近い所に雨雲の層がある時、之等の雨雲は零度以下の気温の時も過冷却された微水滴の状態でゐることが多い。角板の雪が上層で出来て落下して来る時、この雨雲の層で雲の粒子が結晶に凍りついて来る。第二図(B)に付著してゐる粒の直径を測ると大体従来知られてゐる雲の粒の大きさと一致する。(A)の模写図は此の雲粒付結晶を示すものであらう。此の微水滴は凍りつく時下の結晶の影響を受けて、自身も結晶質の氷になることが多い。(A)の粒が角柱を横から見たやうな形に描いてあるのは、そのことに気がついてゐたのかも知れない。(※付記参照※)


『雪華図説』の研究 模写図と顕微鏡写真と比較 第三図
第三図
  第三図(A)は辺が糸捲き型に湾曲した六角板である。此の形の雪の結晶は、同図(B)の型を示してゐるものと思はれる。此の(B)は、六角板の結晶が、落下途中少し水蒸気の多い層へ来ると、角から枝が出始めるのであるが、その出始めの状態を示すものである。即ち丁度その状態の時地表に達して、吾々の眼に留つたのである。内部の構造は落下途中昇華作用といふ現象の為に消えてしまふこともあるので、従つて同図(A)のやうに見えることも有り得る。


『雪華図説』の研究 模写図と顕微鏡写真と比較 第四図
第四図
  第四図は「扇形」と称する結晶型であつて、角板の場合よりも水蒸気の供給度の少し多い時に出来るものである。もつとも水蒸気が多くなると、結晶は細い枝の集合即ち樹枝状になるのであつて、此の扇形(セクトル)が六枚集つたやうな形の結晶は、角板と樹枝状との両結晶型の中間型を示すものとして興味がある。第四図(A)の模写が此の扇型を示すことは疑ないであらう。


『雪華図説』の研究 模写図と顕微鏡写真と比較 第五図
第五図
  第五図(B)の結晶は、樹枝状発達(デンドリテイツク)をした結晶の比較的簡単なもので、此の種の結晶で一番簡単なものは、中心から細い六本の枝が放射したものである。それが一寸複雑になると、此の図のやうな結晶になるので、六本の大枝から小枝が出始めるのである。此の写真はその丁度出始めの状態を示すものと思はれるのであるが、同図(A)の模写図は、その特徴をよく捕へて描いてあるのが面白いと思はれる。

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