2015年10月6日火曜日

『雪華図説』の研究 05 模写図と顕微鏡写真と比較 (第14図から第17図)


『雪華図説』の研究 模写図と顕微鏡写真と比較 第十四図
第十四図
  第十四図の写真は、角板から羊歯状発達の枝が出た例を示してゐる。此の時はそれで、地表に近い気層が十分に水蒸気を含み、第九図の結晶が出来た時と似た状態にあつたことが分る。即ち第十二、十三、十四図のやうな結晶の雪が降る場合は、上空に水蒸気の少い角板の出来る状態の気層があり、地表近くに、夫々水蒸気の量が色々異つた気層があつたことを示してゐるのである。逆に云へば、結晶の形を見ると、その時の上空の気象状態が分ることになるので、その時の条件をもつと詳しく知るには、之等の雪の結晶を人工的に作つて見れば、その実験結果から上空の気象状態が推測出来る。雪を人工的に作ることも今では出来るやうになつたので、土井利位の模写図も大部分はその意味が分るのである。第十四図(A)で角板に近い小枝から更に第二段の小枝が出てゐるのも、(B)の写真に見られる通り実際にあるのであつて、全く出鱈目に描いたものではないのであらう。


『雪華図説』の研究 模写図と顕微鏡写真と比較 第十五図
第十五図
  第十五図は以上の場合と反対の気象状態の下で出来た結晶を示してゐる。即ち上空に簡単な樹枝状発達をする層があると、先づ中心から六出する星状の結晶が出来、その結晶が落下して来て、地表近くで水蒸気の少い層に遭遇すると、星状の枝の先端に同図(B)のやうに小角板がつくのである。同図(A)の模写図との一致は驚くべきものであらう。


『雪華図説』の研究 模写図と顕微鏡写真と比較 第十六図
第十六図
  第十六図の結晶も第十五図の場合と似たものであつて、只この時は、先端が二重になり特殊の構造を示してゐる。前出の小角板とは少しく趣を異にしてゐることは顕微鏡写真でよく見られる通りである。模写図ではこの特殊構造は二重円(まる)で表現してあるが、よく感じは出てゐると思はれる。此の特殊構造は、人工雪の研究の結果、此の点で結晶が厚くなり二重構造に発達する為に出来るものといふことが分つた。


『雪華図説』の研究 模写図と顕微鏡写真と比較 第十七図
第十七図
  第十七図は、比較的珍らしい三花の結晶の例である。此の三花は従来外国でも観測されて居たものであるが、十勝岳の研究でその成因が分つた。即ち結晶が出来始めの極初期に核が二つ上下に重つてくつつき合ひ、その一方の核から偶々三花が伸び、他の核から他の三花が発達した場合が考へられる。さういふ結晶は一見六花に見えるが、適当に中心をつつくと、三花二箇に分離することが出来た。落下途中風などの為に自然にその分離が起ると三花の結晶が出来るのである。それで此の三花は双児の片割れと見ることが出来る。(A)の模写図では、小枝を少し伸し過ぎて、全体として六角形に近く描いてあるのは少し作り過ぎと思はれるが、大体の傾向は、小枝は中心に近いものが長いのである。

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